校長室の窓から

トップ > 校長室の窓から > 2024年度 > 物事を極める

物事を極める 2024年06月29日

(中学校・高等学校朝礼講話をお届けします。)

物事を極める

 本日は、皆さんには「物事を極める」ことを目指して欲しいというお話です。スライドに掲げました「人はすべからく一芸一能に秀づべし」という言葉は、下田歌子先生が度々生徒たちに話していた言葉の一つです。「一芸一能に秀でる」とは、一つの技芸や能力に特別に優れていて、誰にもに負けない様子を意味します。このことは要するに「物事を極める」ことですので、それを目指しましょうということでお話をします。
 「物事を極める」ことは、その分野での一番高いところを目指すことは同じですが、「ヨーイドン」の競争のように、勝者は一人だけで、あとは敗者になってしまうレースのようなものとは異なります。「物事を極める」ことは競争ではありません。同じ分野でも、その極め方にはいろいろあり、それぞれのやり方で極めるので、敗者はいないといってもいいと思います。
 その点、「物事を極める」ことは、山登りに似ています。山の登り方も一つではありません。頂上を目指すことは同じでも、麓から真っ直ぐに直登する人もいれば、ジグザクに少しずつ高度を稼いでいく登り方や、行程は長くなりますが、くるくると山を一周するように、円を描くように高度を稼いでいく登り方などざまざまです。

万葉源氏小植物園 ナデシコ

 その行程の様子について言えば、高度の低い樹林帯やブッシュの中を行くときは、頂上を目指す期待感から、最初はいいのですが、同じような草木の連続で、先もよく見えないので、自分が今どこに居て、何を目指しているのか分らなくなってしまうことがよくあります。自分は何をしているんだろうと、目標を見失うこともあります。それでも、諦めず一歩一歩、歩を進めていくと、急に目の前の視野が開けてきて、出発した地点や目指す頂上のおぼろげな姿が望めるようになってきます。これまでのことが一つに繋がってきて、これまでの経験が活きているのを実感します。
 これを繰り返していくことで、もっと高いところから、遙か遠くまで見通すことが出来るようになります。多くの世界に繋がっていくのです。多くの人に出会うことにもつながります。歩を進めることも楽しくなってきます。そうなれば占めたものです。「一芸に秀でる者は、多芸に通ず」(一つの道を究めた人は他の多くの物事も身に付けることがたやすい。)という言葉があるのもうなずけます。

 いい言葉ではありませんが、「専門馬鹿」という言葉があります。専門しか分らない世間知らずのような意味で用いられます。私も日本語学の専門家ですので、この言葉と隣り合わせで生きてきました。専門家は「極める」ことを目指す人たちですので、本当の専門家に「専門馬鹿」はいません。ただ、「極める」行程の樹林帯の段階では「専門馬鹿」であることも必要になるのかもしれません。一途にその専門を突き詰めることに専念しているので、他のことが見えないこともあります。でも、そこを抜け出なくてはなりません。
 中学生の皆さんにとって、進路選択の時期はもう少し先のことかもしれませんが、今から自分はどう生きたいと思うのか、自分に取ってどんなことを一番大切だと思うのかをじっくり考えておくことは大切です。そのことを考えることと同時に、熱中できることを是非見つけてください。先週の土曜日の1限で、中2中3の皆さんは、3人の先輩のお話を聞きましたよね。キャリア選択に関わる素晴らしいお話でした。そのお話の中にも、「熱中できることを見つけてください」というお話があったことを覚えていますか。「好きこそものの上手なれ」という言葉があります。好きなことは長続きしますから物事を極めやすいのです。進路選択の時期になっても、進路の方向が分らない、一応の方向があるけれども、まだ迷っているという状況になるかも知れません。その時、皆さんは樹林帯やブッシュの中を歩いているのかも知れません。焦ってはいけません。好きな事をそしてその道を極めようという強い意志を持ち続けてください。そして、歩みを止めることがなければ、必ずそう遠くない将来、見晴らしのいい場所に立つことが出来ます。その時、それまでの歩みが無駄でなかったことに気づく筈です。今、皆さんが取り組んでいることに無駄になることは一つもありません。
 「物事を極める」ことを目指しなさいと諭した、下田歌子先生の言葉、「人はすべからく一芸一能に秀づべし」の言葉を胸に刻んでいただきたいと思います。物事を極めようとすることで、そこから多くの視野が開けてくることを知っていただきたいのです。
 お話は以上です。ご静聴、ありがとうございました。

ページトップへ